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今回は、古代中国の書籍である「武経七書」から、現代の経営に役立つ情報を学ぶシリーズの3回目です。 前回は、「呉子」、「司馬法」について、解説していただきました。 今回解説いただくのは、七書のうち、兵法書である「尉繚子(うつりょうし)」と唐の太宗と重臣の李衛公との兵法問答をまとめた「李衛公問対」の二書です。 両書から導き出される現代の経営に役立つ情報について、イー・マネージ・コンサルティング協同組合所属の中小企業診断士、米倉早織氏に解説していただきます。
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「武経七書」を活かした経営戦略 第3回(尉繚子・李衛公問対編) |
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今回は、「尉繚子」と「李衛公問対」を基にした経営戦略について解説する。 「尉繚子」については、 ・社員のモチベーションを高めるためのポイント ・社員と上司の意識の共有の仕方 ・主導権を継続するためのポイント について解説し、 「李衛公問対」については、 ・製品・サービスの販売における工夫 ・国内外に現地法人を設立した場合の対応方法 ・社員に対する愛情と厳しさの与え方 について解説する。
1.「尉繚子」の成り立ち 「尉繚子」の作者は明確ではないが、その成立に関わった「尉繚」という人物は2名いたようである。一人目は梁(魏の別称)3代目の恵王に兵法を説いた人物である。二人目は秦の政(後の始皇帝)に仕えた人物で、「史記」の「始皇帝本紀」にも「魏の都の大梁出身の、尉繚という人物が秦に来て、秦王政に説いた。」と詳しい記述がある。
2.「尉繚子」のポイントと現在の経営戦略 ①味方の戦意を高めることが勝利につながる 戦いにおいて部下の奮起を促す為に必要な3点を記している。 ・普段から人民の生活を豊かにする。爵位の等級、喪礼の規定など社会生活の根本問題を明確に定めておく ・土地・俸禄を公平に給与して生活を保障する ・相互扶助の精神を振興して、喪礼・兵役の負担を軽減する 現代の企業が競合他社に勝つ為には、社員が衣食住の心配をしなくても良い、また、将来的な不安を持たなくても良い処遇が必要である。これが出来ないと、社員は衣食住のレベルを落とし将来の夢も縮小せざるを得なくなり、体も心も疲弊して、結局、企業の業績も低迷する。更に、十分活用した後切り捨ててしまうような対応を避け、将来的にも戦力となってもらうような対応が必要である。 また、お互いに協力して助け合う事を奨励することで、特定の人が過度の負担で潰れてしまうことを防ぎ、また、業務のやり方やノウハウも共有できて、組織としての総合力も高まって行くと思われる。 これらは、3年も続く新型コロナの感染状況下では、特に重要になると思われるので、留意が必要と思われる。
②平時から愛と威信を以て部下を纏め、戦いの前には十分な計画を立ておく必要がある 軍隊では将帥・兵士が心を合わせて一体となって行動すべきで、そうでないと上部方針に下部は動かず勝手に動いても抑えられず、流言が飛び交い戦いに敗れる。また、将帥が確信をもって命令することで兵士は忠実に動き、将帥に必要なのは愛と威信のみである、と述べている。そして、平時よりこれを確立すると共に作戦も事前に立てておく必要もあるとしている。 現在の経営においても、上司と部下の意識がずれていては効率的な業務遂行はできず競合他社には勝てない。これを避ける為には常日頃から、部下の良いところは褒めて更に磨きをかけさせ、足りないところは助言する等、コミュニケーションを活発に行うとともに、良い結果が出た場合は部下の功績を褒めて、その「勝ち方」を皆に共有し、万が一うまく行かなかった場合でも部下の責任にするのではなく、その要因と今後の対応について一緒になって考える必要がある。これによって企業の総合力をより一層高めることができると思われる。
③戦いに際しては先手を取って主導権を握る事を考える必要があり、その為に戦争に内在する法則性を把握しておく必要がある 先手を取って主導権を握る事で、その後の戦局を自国に有利に導ける。そして、止まるべき時に止まらず闇雲に盲信したりすると敵の計略にはまり敗北する、と述べている。また、敵が侵攻して来ても十分な敵情把握がなければ応戦せず、主導権を握っても敵の動きを見極めたうえでないと攻撃すべきではない、としている。 富士フィルムがコダックを技術的に凌いだ1976年、主導権を握ったと認識したが、1970年代から既に入力~出力を全てデジタルでカバーしたフルデジタルカメラの研究を開始、1988年に世界初の販売を開始した。また、従来のフィルムに匹敵する画質を実現したコンパクトデジタルカメラを1998年に発売したこと等により、2012年に倒産したコダックとの明暗が分かれたのは一つの例であろう。因みに富士フィルムはその後も、ヘルスケア、化粧品、医薬品分野へ進出し、競合他社に主導権を取られない為の努力を継続している。
3.「李衛公問対」の成り立ち 唐(618~907)の太宗(第2代、在位627~649、「貞観の治」で有名)と重臣の李衛公が兵法問答をした内容である。春秋・戦国時代(B.C.770~221)の兵法書の引用も多く歴史上の人物の人物評も含み、また「孫子」の良い注釈書になっている部分もある。作成されたのは唐代末という説もあるが作成者は不明である。
4.「李衛公問対」のポイントと現在の経営戦略 ①戦争のやり方は「正」と「奇」の組み合わせから成り立ち、その変化は無限である 「孫子」で取り上げられた事であるが、記述が非常に抽象的で明確に書かれていない。 「李衛公問対」では、戦いで前に進むのが「正」で後ろに進むのが「奇」と記述している。また、「正兵」は君主より授かるもの「奇兵」とは将軍が自らの判断で繰り出すもの、と記している。正規軍と奇襲部隊の違いかもしれない。 現在の経営においても、広くあまねく製品・サービスの販売を行うのでは他社に差を付け難いので、期間限定で特定の年齢層や職域にターゲットを絞りそこに特別なキャンペーンなどを行い、売上が上昇したところで他の層・職域・地域にも販路を拡大する等、詳細に計画した戦略をとる必要がある。並行してSNS等も効果的に使い魅力的な宣伝も継続的に行う事も必要である。また、国内外の大学の先生や有名人にコメントを頂くことも効果的であろう。
②民族・漢民族の長所を発揮して全体として勢いに乗ること、また、現地には現地の指揮官を配置する 突厥、吐谷渾(とくよこん)、薛延陀(せつえんだ)、回こつ(かいこつ)、契丹、奚 等の異民族を「討伐、従わせた」との記述があるが、一方で、異民族兵士は騎馬を得意とし短期決戦型、漢民族は怒(石弓)を得意とし長期戦型の為、両者の長所を使いこなして全体として軍を強化することが必要と説いている。 また、契丹と奚が唐に帰順してきた際、太宗がある人物を現地指揮官に起用したいと李衛公に尋ねたところ、戦いのやり方を知り信頼に足る情報を把握し、戦術の飲込みが早い、現地の異民族の者を任用するよう進言した。 現在で言えば、本社から離れた国内外に現地法人を作った際、人の異動に加え現地採用者も一緒に業務を進めること、また、責任者も現地の事情を把握している現地の人になってもらうことが、効率的な経営が出来るので良いということになろう。
③兵士にはまず愛情を持って臨み刑罰は後で示すことが必要で、信頼を持って対応することが心服させるポイント 「孫子」の一節を引用し、上に立つ者は兵士に対してまず愛情を持って臨み、十分な信頼を得てから罰則を厳しく適用すべきであり、罰則ばかり与えていては兵士はやる気を損なうと説いている。 また、後漢の光武帝が河北に起こった農民蜂起軍、銅馬を平定した後、彼らを巡回した際「赤心」(嘘偽りのない心)を持って接してくれた、と言われた。光武帝が「人は人情として悪を行えないものである」ことを把握していた為にできたことで、信頼を確立する事の重要性を説いている。 現在の部下指導においても、まず、部下の良い点を褒めることに加え、うまく行った要因を仲間に共有してもらい皆の力を高めることで、愛情が伝わり信頼を得られ、その後、良い結果が出ない場合にも、過去の良い点を褒めたうえで、その社員を鍛えるための厳しい指摘をすることが必要と思われる。これは、将来的に、企業の業績の向上にも繋がるものである。
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イー・マネージ・コンサルティング協同組合 中小企業診断士 米倉早織 |
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なお、「JRS経営情報」の次のコンテンツもご参考にしてください。
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関連情報 |
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JRS経営情報(PDFサンプル)
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情報番号 |
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◆ 武経七書を活かした経営戦略(基本編) |
20210371 |
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◆ 武経七書を活かした経営戦略(尉繚子編) |
20210374 |
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◆ 武経七書を活かした経営戦略(李衛公問対編) |
20210375 |
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◆ 武経七書を活かした経営戦略(呉子編) |
20210372 |
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◆ 武経七書を活かした経営戦略(司馬法編) |
20210373 |
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