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今年元旦の午後に能登半島を襲った能登半島地震は、奥能登と言われる過疎地域に甚大な被害を与え、人的被害だけでなく、住宅・道路・水道・電気などの生活インフラ、白米千枚田、見附島など地域の観光資源であった美しい景観、そして輪島朝市や和倉の温泉街など地元の産業にも大打撃を与えました。 中でも、「輪島塗」や「珠洲焼」など伝統工芸品産業は、極めて大きな被害を受けましたが、今回は、これらの地元伝統産業の復興支援に携わり、何度も現地に足を運ばれたイー・マネージ・コンサルティング協同組合の中小企業診断士 増澤裕子様から、復興支援策の現状についてレポートが届きましたのでご紹介します。
参考までに以下のHPもご覧ください。
石川県 令和6年(2024年)能登半島地震に係る事業者支援施策について 富山県 富山県なりわい再建支援補助金 日本政策金融公庫 令和6年能登半島地震による災害に関する特別相談窓口
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能登半島地震による影響と伝統的産業支援策の現状 |
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2024年1月1日の能登半島地震により、能登半島は壊滅的な被害を受けた。2000年以降に能登半島を大規模地震が襲うのは、2007年に続き2回目であり、全壊住宅の数は2016年の熊本地震を上回った。とりわけ、伝統工芸でも知られる輪島市や珠洲市は被害が大きい。能登半島地震では多数の伝統的工芸品産業が被害を受けたが、本コラムでは特に輪島市と、その伝統的工芸品として国から指定を受けている「輪島塗」を取り上げたい。
1.地震による輪島市への影響について まず、震災による輪島市の被害状況についてであるが、1万棟を超える住家が被害を被っており、うち22%以上が全壊、36%が半壊である(7月30日現在)。その他、非住家の建物も1万棟超が被害を受けた。輪島市の観光名所である「朝市通り」では、地震により発生した火災により200棟以上が焼け、今は粛々と瓦礫の撤去作業が行われている。 輪島市の人々は避難所生活や車中泊などを続けていたが、震災から半年、遅れつつも仮設住宅の建設が進んできた。しかし7月30日現在、まだ200人以上が体育館などの避難所に残り生活をしている状況である。
2.輪島塗について 輪島塗は、1つの漆器を作り上げるために120を超える製造工程を経る。その全工程が塗師という総合プロデューサーによって取りまとめられ、大きな工程ごとに専門の職人が分業して生産を行う。職人同士で協業しながら手作業で一つの作品を作り上げるため、制作期間も約六か月かかり、販売価格も高価となる。日本の総理大臣から米国大統領への贈答品に輪島塗が贈られたのも記憶に新しい。 輪島市漆器商工課によると、職人の他、営業や事務なども含めた市内の輪島塗従事者は約750人である。事業者は法人化している場合もあるが、個人事業主として個人または家族で事業を営む職人も多く、工房を自宅に設けている場合もある。販売方法は、朝市通りなどの店舗での直接販売、全国各地の展示会やイベントへの出展、オンライン販売など様々である。
3.輪島塗への震災の影響 今回の震災では、工房が倒壊あるいは焼失したり、作業に使用していた機械や道具が壊れたり、漆や蒔絵に使う金粉などの原材料が床にこぼれ使えなくなったりするなど、生産面で大きな被害が出た。 先述のように、一つの輪島塗作品は多くの職人の分業により完成するため、1人の職人が活動を停止すると今まで通りの生産ができなくなる。そのため、輪島塗は再開の見通しが非常に困難とされていた。事業者の方々は、被災した工房からせめて可能な限り無事だった作品を探して救出などをしているが、それも難しい事業者もいる。 また、店舗が倒壊したり、朝市が火災で開催できなくなるなど、販売面の被害も大きい。
4.能登半島伝統的産業支援策の現状について 2024年7月1日時点で、輪島塗や珠洲焼などのある輪島、珠洲両市で再開した事業者は4割にとどまるとの報告がある。しかし、進捗は大きくはなくても、輪島塗の復興のために公的な支援と民間の支援、そして事業者の自主的な取組が動いている。
① 公的な支援策 石川県は、伝統的工芸品の仮設工房を25年度末までに開設する計画だ。輪島市内で仮設工房の建設が進められており、工房を失った職人が順番に入居し仕事を再開している。 事業再開を支援する国や県による補助金も多くあり、特に伝統的工芸品事業を対象とした補助金も特設された。伝統的工芸品の製造事業者等を対象に、必要な設備や機器、道具の購入費や、原材料の購入費などを補助率4分の3で最大1,000万円まで補助するというもので、伝統的工芸品の製造再開を目的とする。輪島市は、さらにその交付決定事業者に対して独自の上乗せ補助を用意し、経営再建を後押しする。 そのほか、伝統的工芸品事業に限定せず、工場や店舗などの原状回復が対象となる補助金なども国や県が用意している。
② 民間支援および自主的な取組み 民間の支援として、まずは寄付が挙げられる。輪島塗事業者が個人または団体、プロジェクトとして、ホームページで支援金を受け付けているケースも多い。また、クラウドファンディングによる輪島塗支援プロジェクトも複数立ち上がり、多くの資金が集まった 県内の金融機関は、金利が優遇される特別融資制度などを用意している。 支援は、輪島塗の販売促進や購入の形で行われることも多い。全国各地で震災応援フェアが開催され、情報発信支援や輪島塗の販促が行われている。毎年2月に東京都内で行われる「いしかわ伝統工芸フェア」には、震災発生の翌月にもかかわらず、被災した輪島塗事業者9店が出店した。伝統工芸を絶やさぬこと、お客様に現状を伝えることなどを目的とした。5月の「九谷茶碗まつり」では輪島塗や珠洲焼の復興支援ブースが設けられた。
筆者は中小企業診断士として3月よりほぼ毎月、輪島塗事業者のご支援で輪島を訪れ、事業者の方々とお話をする機会がある。各種支援を励みとして頑張りたい、との声もいただく。事業者の方々は皆、何とか前を向いて事業を進めていこうとされている。 朝市通りでの開催ができなくなった輪島朝市は、7月10日、場所を変えて半年ぶりに市内の商業施設で営業を再開した。輪島塗事業者も出店している。課題が山積みの中、少しずつでも復興に向かって動いていると信じ、公的および民間の支援を途切れさせぬようにしたい。自身にできる支援を行いながら、輪島を支える輪島塗の一日も早い復興を祈る。
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イー・マネージ・コンサルティング協同組合 増澤祐子 |
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