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No.302 JRS メール配信サービス(2025.06.30)

JRSメール配信サービス発行

 

 

いつも、メルマガをご愛読いただき、有難うございます。

 

今回のメルマガは、最近のテーマとは趣を変え、時事問題について触れてみます。

物価の上昇や人手不足が騒がれている中で、2025年の春闘がほぼ一段落し、高い賃上げが実現しそうです。企業経営者にとっては、この賃上げをどう考えていかねばならないのでしょうか。

今回は、賃金や人事制度の専門家で、JRS経営情報で「都道府県版・等級別賃金表」などの執筆も行っている株式会社プライムコンサルタントの執行役員 田中博志様に、2025年の春闘を振り返って、その意味と今後の企業のめざすべき対応についてお話をいただきます。

 

 

 

 賃上げが"前提条件"になる時代―春闘から見える企業経営の転換点

 

 

 

今年の春闘では前年を超える賃上げが実現しそうです。この動きから、私たちはどんなヒントを得るべきでしょうか?

 

2025年春闘では、賃上げが地方や中小企業にも浸透し、「賃上げの定着」が現実となりました。経団連の十倉雅和会長(5月末で退任)が掲げた「2023年=賃上げの起点、24=加速、25年=定着」という流れが形になったとも言えます。ここでは、その背景や結果をふり返り、「定着」の意味とこれからの課題や可能性を考えたいと思います。

 

春闘の環境は賃上げを後押し

まず、春闘を取り巻く情勢を見ておきましょう。

 

2024年度の日本経済は緩やかに回復し、実質GDP0.8%の成長となりました(1次速報値)。ただ、前半に持ち直しを見せた個人消費は、秋以降の物価高で勢いが鈍り、内需の本格的な拡大までは至っていません。

 

企業収益は、2024年度もおおむね好調に推移しましたが、企業倒産件数は11年ぶりに1万件を超え、特に中小零細規模の倒産が目立ちました。また、「人手不足倒産」「物価高倒産」が急増し、いずれも過去最多を更新しています。

 

労働需給は依然としてひっ迫し、2024年度平均の有効求人倍率は1.25倍、完全失業率は2.5%と「売り手市場」が続いています。

 

最低賃金は、202410月に全国加重平均で51円(5.1%)引き上げられて1,055円になりました。1,000円を超える都道府県も16に倍増。政府は、賃上げが地方や中小企業にも広がることを狙い、価格転嫁の支援策を一段と強化しています。

 

このように、企業業績や雇用環境、物価、政府の姿勢はいずれも賃上げを後押しする動きとなり、「賃上げの定着」は大企業だけでなく、日本全体の重要課題になりました。

 

政労使が歩調を合わせ前年を超える賃上げが実現

202411月末、連合は2025年春闘で「ベースアップ3%以上・定昇含め5%以上」、中小企業には「6%以上」を求める方針を発表。これに対し経団連は、「賃上げは社会的責務」として、ベアを意識した賃上げを会員企業に呼びかけました。

 

政労使が積極的な賃上げに足並みをそろえる中、個別労組も強気で交渉を進めました。202533日時点の連合集計では、賃上げ要求は平均6.09%、中小企業に限れば6.57%と32年ぶりに6%を超えました。

312日の集中回答日には、主要製造業の6割が満額回答またはそれ以上で妥結し、5%を超える賃上げも続出。業種や企業ごとの差はあるものの、全体としては高い基調を維持しました。

 

この流れは他の業種や中小企業にも広がり、連合の62日時点の集計では、全体の定昇込みの賃上げ平均が16,399円・5.26%と、前年(15,236円・5.08%)を上回りました。中小企業に目を向けると、300人未満の組合では12,453円・4.70%(前年は11,361円・4.45%)と、4%台後半まで上昇。さらに、99人未満の組合のベア分が8,548円・3.28%に達し、全規模で物価上昇を上回るベアが実現しそうです。

 

学卒初任給も急上昇が続いている

新卒採用の競争が一段と激しくなる中、学卒初任給も大きく伸びています。連合の同時点の集計では、2025年春の新卒初任給の平均は、大卒・事務技術職が241,967円(前年比+5.37%)、高校・事務技術職は20266円(同+5.80%)と大幅に上昇。また、日本経済新聞社によると、今春に30万円を超える初任給を設定する企業は前年から倍増して131社になりました。

 

今春闘の含意=賃上げは「人への投資」という原点に立ち返る

2025年春闘から見えてくるのは、「賃上げ」がもはや"やるかどうか"の「選択」ではなく、「事業継続の前提条件」となりつつあることです。従来なら、景気に応じて賃上げを判断できましたが、今は違います。人手不足が常態化する中、「人材を確保するためには賃上げは避けられない」のです。

 

今後重要なのは、受け身的な賃上げではなく、賃上げの原資(=付加価値)を高める視点です。鍵は、人材をコストではなく資本ととらえ、「人材への投資」によって生産性を高める人的資本経営にしっかり立ち戻ることです。

 

企業がめざすべきは、「利益のために賃金を抑える」経営ではなく、「賃上げや初任給の引き上げを先行投資と位置づけ、成長した人材が高い付加価値を生み出して利益を上げる」経営です。

そのためには、「年功」ではなく「職務」や「役割」を軸に人材を適切に配置・育成し、組織的な活躍を促すとともに、貢献度に応じた待遇を通じて成長と配分の好循環を築かねばなりません。

 

そして、各社の労使が「付加価値を上げるために賃金を上げる」という共通認識を持ち、真摯な対話を重ねて生産性向上に取り組めば、日本社会の悲願である「賃上げ→消費拡大→企業収益向上→投資増加」という好循環が実現し、今春闘は「歴史の転換点」だったと記憶されるでしょう。

 

 

 

株式会社プライムコンサルタント 執行役員/中小企業診断士

田中博志 

 

 

 

 なお、「JRS経営情報」の次のコンテンツもご参考にしてください。

 

 

 

 

 関連情報

 

 

JRS経営情報(PDFサンプル)

 

 

 

 

情報番号

 

 

 中小企業こそ取り組むべき「人的資本経営」

20250239

 

 

 「ゾーン型等級別賃金表」と「ランク型賃金表」の特徴?

20240087

 

 

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